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林 光
『ソング』から  「うた」「石ころの歌」「花の歌」「ねがい」
 林光の作品には「ソング」と呼ばれる膨大な数の歌がある。 それらの歌のうち、かなりのものが政治的な動機により作られている。 今回選んだ曲も、例えば「うた」と「ねがい」の2曲は 1982年ポーランド「連帯」支援コンサートのために作られたものである。 そうした事実は、この作曲家が鋭く社会と向き合いながら作曲を続けてきた姿勢を示すものに他ならない。 しかし同時に、林光の「ソング」はそうした作られた動機を離れて歌い継がれ、 いわば「民謡」のように愛唱されている。 それは、まさに「ソング」と呼ぶに相応しい。 そして民謡が「古い革袋に新しい酒を盛る」と言われるのと同じように、今なお歌われるたびに新鮮に、 深く鋭く人生を語りかけてくる。
一柳 慧
『子供の十字軍』
 ベルトルト・ブレヒト(1898〜1956)の同名の詩に作曲された「子供の十字軍」は、 1983年度東京混声合唱団の委嘱作品として同年初演されている。 作曲者一柳慧氏は、1976年にポーランドを訪れた時、短い滞在期間にもかかわらずポーランドの現実に触れ、 戦後30年を過ぎてもこの国の戦後が全く終わっていないという強烈な実感を持ち、 そのような認識を音に託したいと思ったと書いている。
 全体は無調で書かれ、切れ目なく淡々と子どもたちの悲惨な物語を歌う。 詩の合間に入ってくる言葉のない(あるいは擬音)部分では、 その時々の表情を持った音群が詩の内容をより具体的に浮かび上がらせる。 また、最高で14声部に分かれる難易度の高いハーモニーも要求され、一貫して緊張感の続く大曲である。
高橋悠治
『クリマトーガニ』
 トーガニは沖縄の宮古諸島全域に広く見られる叙情歌で、トーガニ、タウガニ、カニスマなどとも呼ばれる。 歌詞の内容は、長寿の祝いや島の発展などを願って祝宴の席で歌われる「座敷様」と、 夫婦や恋人の情を歌った「カニスマ様」とに分けられ、時に即興的に歌われる。  この曲は、来間(くりま)島のトーガニを原曲としている。 作曲者が「宮古農民は、たいへん古く、東南アジアの島々ともつながる歌のスタイルを残している。 風にのり、野や海にひびきわたるトランペットのような声をとりもどすために、この曲では台湾、フィリピン、 インドネシアの先住民の合唱や合奏のスタイルを参考にした」 と述べているように、冒頭に現れる合唱は台湾先住民の伝統的なポリフォニーに基づいている。
新実徳英
混声合唱とピアノのための 『祈りの虹』
I 「炎」 詩:峠三吉
II 「業火」より 詩:金子光晴
III Vocalise
IV 「ヒロシマにかける虹」 詩:津田定雄
「私の日頃からの怒りと願いをこの曲にぶつけた。 ‥‥ 選ばれた3編の詩は、いずれも第2次大戦とその結末となった原爆投下を経て書かれたものである。 人間世界に絶望し怒り、また消え行かんとする自が命を見つめつつこれらの詩が書かれた。 詩人たちの強靱な精神、慈愛と汚れない祈りの心が私の作曲を見守ってくれた。」 (作曲者ライナーノートより)
 あれから60年を経た今、失われた人々の魂が昇華し、やがて青い空や緑の木々を蘇らせ、 天空にかかる虹となっていつまでも我々の行いを見届けている。 我々はあらゆる怨念や報復の連鎖を乗り越え、人類の未来のために祈り、誓いを立てなければならないだろう。
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